札幌地方裁判所 昭和63年(ワ)1299号 判決 1991年11月21日
原告
佐藤義光
右訴訟代理人弁護士
村松弘康
同
肘井博行
同
太田賢二
同
高崎暢
被告
有限会社真和建機
右代表者代表取締役
大島順一
右訴訟代理人弁護士
向井論
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
「1 被告は、原告に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年六月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに第1項について仮執行の宣言。
二 被告
主文と同旨の判決。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 当事者
原告は造園業を営む者である。
2 事故の発生
原告は、次の事故(以下「本件事故」という。)により損害を受けた。
(一) 発生日時 昭和五七年六月八日午前八時一五分ころ
(二) 発生場所 札幌市中央区宮の森二条三丁目所在の金井秀二郎宅(以下「金井宅」という。)前の路上
(三) 加害車 クレーン車 運転者渡辺和夫(以下「渡辺」という。)
(四) 態様 後記3のとおり
(五) 傷害 原告は、本件事故により、腰部を強打したため、第一腰椎粉砕骨折及び脊髄円錐部損傷の傷害を受けた。
(六) 入通院 原告は、事故発生日の昭和五七年六月八日に桑園中央病院にいったん入院した後、同日から昭和五七年一二月一五日までの一八九日間定山渓病院に転入院し、さらに昭和五八年三月八日から同月一四日までの七日間定山渓病院に入院し、昭和五八年一月一二日から昭和五九年一一月二六日までのうち四六日北大病院に通院して治療を受けた。
(七) 後遺障害 昭和五九年一一月二六日に症状が固定し、脊柱に著しい奇形または運動障害の後遺症が残存し、自覚症状としても、腰部から両足までの疼痛、排尿・排便障害があり、検査結果によっても、下肢腱反射亢進、肛門腱反射低下、知覚低下などの症状が残った。原告は、現在も、腰をかがめるときに強い痛みがあり、腰に力を入れることができず、排尿・排便にも障害がある。
この障害は自動車損害賠償保障法施行令二条別表所定の等級の第六級に当たる。
3 本件事故の態様等
(一) 原告は、昭和五七年六月七日ころ、金井から同人宅の庭石の設置作業等の造園作業の依頼を受け、被告から配車されたクレーン車及び大型トラックを使用して行うことに決めた。
(二) 本件事故当時の現場の状況は、別紙現場見取図(一)表示のとおりである。
(三) 原告は、金井宅内の庭石置き場において、日高石の庭石(以下「本件庭石」という。)を「一本吊り」の方法によりワイヤーロープ(以下「玉掛けロープ」という。)を巻き付けて玉掛けしてから、クレーン車を運転する渡辺に対し、クレーンのブームに付いたワイヤーロープ(以下「ワイヤー」という。)を巻き上げてもよいとの合図をした。渡辺は、ワイヤーを巻き上げて、クレーンのブームを金井宅の前の路上に停められた大型トラック(以下「本件トラック」という。)の方向に旋回させた。
本件トラックの荷台上では、トラックの運転手である舛谷則夫(以下「舛谷」という。)が、渡辺に対し、石の着地点の指示をし、さらに石が荷台の真上辺りにきた時、ブームを「下げる」との合図をした。舛谷は、合図をしながらも、着地点を決めることができず、本件庭石をぐるぐる回すのみであった。渡辺は、合図にしたがってブームを下げたところ、石がトラックの荷台か荷台上の角材に接触した。そのため、本件庭石に掛けられていた玉掛けロープが弛み、石が荷台上で倒れた。
その後も、渡辺は、舛谷の合図で、ワイヤーを巻き上げたために、石が倒れる速度を早めた。
原告は、舛谷が本件庭石をぐるぐる回すのみであったので、これを手伝おうとして、本件トラックの荷台に上がり、その中央辺りにきた時、本件庭石が倒れてきたため、これを避けようとして本件トラックの荷台から飛び下り、路上にあった街路樹の切株に腰部を強打した。
4 責任原因
(一) 運行供用者責任
本件事故当時、被告は加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条により他人である原告に与えた後記の損害を賠償する義務がある。
(二) 使用者責任
被告は、その被用者である渡辺及び舛谷が被告の事業の執行中、以下に述べる過失によって本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条により原告に与えた後記の損害を賠償する義務がある。
すなわち、渡辺及び舛谷は、本件庭石(日高石)のように巨大で極めて滑りやすい性質の石をワイヤーで吊り上げ、所定の場所に着地横転させようとする場合には、もしワイヤーの緊張を弛めると、石の形状や重心の位置により、石が予測しない方向に倒れる危険性があるから、ワイヤーを緊張させたまま着地横転させる義務を負う。
ところが、渡辺及び舛谷は、右の義務に違反して、舛谷において、本件庭石の着地点をはっきりと決めないまま片手でくるくる回しながら、渡辺に対して特に注意を与えることなく漫然と下ろすように指示し、一方渡辺において、本件庭石が転倒する危険性を熟知しながら、充分にトラックの荷台と本件庭石との距離、荷台の角材の存在状況を確認しないまま、漫然と舛谷の指示合図に従って本件石を下ろし、本件庭石をトラックの荷台あるいは荷台に乗せていた角材に接触させてこれに掛けていたワイヤーを弛ませた状態で荷台に着地・横転させ、さらにそのままワイヤーを再び上げたため、倒れかかっていた本件庭石の倒れるのを早めたものである。
5 損害
原告は、本件事故によって、次のとおり合計五九八七万六八九一円の損害を受けた。
(一) 休業損害
原告は、昭和五七年六月八日から昭和五九年一一月二六日までの九〇二日間本件事故の治療のため入通院をし、その期間休業せざるをえなかった。そこで、原告が得ていた年間収入額の三八二万六八〇〇円(昭和五七年度版賃金センサスの四三歳の男子労働者(学歴計)の収入額)を基礎として、この損害を金銭に見積もると、次の算式により九四五万六九一三円となる
三八二万六八〇〇円÷三六五日×九〇二日=九四五万六九一三円
(二) 付添看護料
原告の入院期間のうち一八九日について一日当たり三五〇〇円の付添看護料が必要であったので、その総額は六六万一五〇〇円である。
(三) 入院諸雑費
原告の入院期間のうち一九六日について一日当たり一〇〇〇円の入院諸雑費が必要であったので、その総額は一九万六〇〇〇円である。
(四) 逸失利益
原告は、症状固定時、年齢が四五歳であって、本件事故に遇わなければ、その後なお二二年間働くことができ、前記のとおり年間三八二万六八〇〇円の収入を受けることが確実であったが、本件事故による傷害の後遺障害によって労働能力を事故後二二年間にわたって六七パーセントの割合で喪失した。この損害を金銭に見積もると、次の算式により三七三八万二四七八円となる。
382万6800円×0.67×14.58(年齢四五歳の者のホフマン係数)=3738万2478円
(五) 入通院慰謝料
原告の本件事故による傷害の程度、治療のための入通院の期間などからして、二一八万円が相当である。
(六) 後遺障害に対する慰謝料
原告の後遺障害の内容及び程度等からして、一〇〇〇万円が相当である。
6 よって、原告は、被告に対し、本件事故にもとづく損害賠償として損害総額五九八七万六八九一円のうち一〇〇〇万円及びこれに対する本件事故発生日である昭和五七年六月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2の冒頭の事実は争う。
(一) 同2(一)ないし(三)の事実は認める。
(二) 同2(五)(六)の事実は知らない。
(三) 同2(七)のうち、原告の受けた傷害が障害等級第六級にあたることは否認し、その余の事実は知らない。
原告の受けた傷害は、障害等級の第一〇級ないし第一一級に相当する。
3 同3(一)の事実のうち、被告が、クレーン車及び本件トラックを配車したことは認め、その余は知らない。
同3(二)の事実は争う。
同3(三)の事実のうち、渡辺がクレーン車を運転していたこと、本件庭石が荷台上で倒れたこと及び原告が負傷したことは認め、その余は否認もしくは争う。
4 同4(一)の事実のうち、被告が本件事故当時加害車を所有していたことは認め、その余は争う。
原告は、本件事故当時、本件庭石を運搬するために、自ら石に玉掛けロープを巻き付ける行為(玉掛け)をしてから、クレーン操作をする渡辺に対し、石を吊るしたクレーンのブームをトラック方向に旋回する指示及びこれをトラックの荷台に下ろす指示を与えて、そのとおりに運転させたものであるから、渡辺の運転補助者であって、自賠法三条にいう「他人」には当たらない。
同4(二)のうち、渡辺及び舛谷が被告の被用者であることは認め、その余は否認する。
後述のとおり、本件事故は、原告が本件庭石の玉掛けをしたあと、渡辺に対し、これを吊り上げるクレーンの操作について指示を与え、そのとおり操作させた結果、本件庭石に掛けていた玉掛けロープが弛んで石がトラックの荷台上で倒れたことによって発生したものであるから、その発生について舛谷及び渡辺には何らの過失もない。もっぱら原告の過失によるものである。
5 同5の事実は争う。
本件事故当時、原告は、原告の主張する賃金センサス記載の年間給与額の収入を得てはいなかった。
三 抗弁等
1 本件事故の態様等
本件事故当日、渡辺がクレーンの運転操作をし、舛谷が本件トラックの運転手として、原告の指示にしたがって本件庭石等の運搬作業に従事した。
原告は、金井宅において、本件庭石に玉掛けロープで玉掛けして、渡辺に対し、クレーンのブームを上げるよう指示し、それから玉掛けロープから本件庭石を回収するために、トラックの荷台上に赴き、同所で舛谷とともに渡辺に対して、旋回してきたクレーンのブームを下げるよう指示し、これをトラックの荷台まで下げさせたところ、玉掛けが不適切であったため、本件庭石が予想以上に早く倒れてきたものである。その後、渡辺は、舛谷の合図で、クレーンのワイヤーを巻き上げたことはない。
そして、本件庭石は、トラックの荷台上で、原告の方向に向かって倒れたものではなかったから、原告がトラックから地上に飛び下りなければならない状況にもなかった。
2 過失相殺
被告に賠償義務があるとしても、本件事故の発生についての以下の原告の過失を斟酌して、原告の受ける賠償額を損害額の一〇パーセント程度とすべきである。
すなわち、前述したように、原告は、本件庭石に玉掛けをするに際し、その大きさ、形状からして本件庭石が玉掛けロープから抜け落ちることのないように充分な緊縛をすべきだったのに、一本の玉掛けロープを巻き付けただけの所謂「一本吊り」(クレーン運転者に対する指導書においては、原則的に禁止されている。<書証番号略>)をしたために本件庭石が玉掛けロープから抜けて倒れたものである。
また、原告は、自らこのような危険な玉掛けをしたのであるから、本件庭石がトラックの荷台に着台して傾き始めた時には、これから充分に離れた位置にいるべきだったのに、これを怠ったこともあって、本件庭石が倒れた時に本件トラックから飛び下りざるをえなくなり、傷害を負うに至ったものである。
3 消滅時効
(一) 本件事故の発生日である昭和五七年六月八日ないし原告の症状固定の日である昭和五九年九月二六日から三年が経過した。
(二) 被告は、原告に対し、平成元年一月二〇日の本件第五回口頭弁論期日において、右の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
四 抗弁等に対する認否
1 抗弁等2の事実は争う。
2 同3の事実のうち、原告の症状が昭和五九年九月二六日に固定したことは否認する。原告の症状が固定したのは、昭和五九年一一月二六日である。
五 再抗弁(時効の中断)
1 原告が本件事故により受けた傷害は、昭和五九年一一月二六日に症状が固定した。
2 原告は、被告に対し、昭和六二年一一月二六日到達の書面で被告の損害賠償債務の履行を催告し、昭和六三年五月二四日札幌地方裁判所に本訴を提起した。
六 再抗弁に対する認否
原告は、被告に対し、請求の原因5記載の損害のうち(一)休業損害、(二)付添看護料、(三)入院諸雑費及び(五)入院慰謝料は、再抗弁2記載の催告をする以前に請求することが可能であったのであるから、この部分については時効の中断効は生じない。
第三 証拠<省略>
理由
一当事者
請求の原因1(当事者)の事実は当事者間に争いがない。
二事故の発生及び態様
1 まず、請求の原因2(一)ないし(三)の事実、同3(三)の事実のうち、渡辺がクレーン車を運転していたこと、本件庭石が荷台上で倒れたこと及び原告が負傷したことは当事者間に争いがない。
2 そして、<書証番号略>、被告代理人が平成二年七月二〇日に本件事故現場を撮影した写真であることが争いのない<書証番号略>、被告代理人が本件事故現場及び加害車を撮影した写真であることが争いのない<書証番号略>、<書証番号略>(写真は、これに印字された年月日及び<書証番号略>の記載により平成二年七月一七日に本件庭石を撮影した写真であると認められる。)、証人渡辺和夫、同舛谷則夫及び同大崎尚の各証言(ただし、信用しない部分は除く。)、原告本人(ただし、信用しない部分は除く。)、被告代表者の各尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 原告は、昭和一四年五月一八日生まれの男性で、昭和四四年ころから造園業に従事し、造園固有の作業のほか、相当の重量のある庭石の運搬作業及びその一部になる庭石の玉掛け作業なかんずくいわゆる「一本吊り」の作業には長い経験を持ち、熟達しているものである。
なお、「一本吊り」とは、一本のロープ(二重にするなどのやり方もある。)を石の周囲に一回巻付け、ロープの片方端を輪状などにした他方端に差し入れるなどして、その差し入れた片方端を強く引っ張ったりして緊縛し、それから差し入れたロープの片方端にクレーンのフック等を掛けて石を持ち上げて運搬する方法をいう。
被告は、重機の賃貸業等を事業目的とする有限会社である。
(二) 金井秀二郎は、昭和五七年六月初旬、札幌市中央区宮の森二条一三丁目所在の自宅建物の北側にある庭石置場の数個の庭石を建物南側表の庭に移そうと考え、そのころ、その運搬作業を原告に依頼するとともに、被告にクレーン車等の配車を依頼した。
金井宅における建物、表の庭、庭石置き場の位置等は、おおむね別紙現場見取図(二)表示のとおりである。
原告は、本件事故発生日の前、金井と打合せをし、同月八日に運搬作業をすることにし、具体的には庭石にロープを掛けてクレーン車で持ち上げ、これをトラックに積み込み、トラックで表の庭付近まで運んでから、再びクレーン車で庭に下ろすことに決めた。
原告は、そのころ、被告代表者らと相談することなく、金井宅の庭石の運搬にあたっては、石の固定あるいは緊縛の方法としてワイヤーモッコ等を用いるのではなく、「一本吊り」の玉掛けによることを決め、その道具として玉掛けロープを二本及び緊縛用の金棒などを用意した。
一方、被告代表者は、本件事故日の数日前に、金井から四トントラックとクレーン車の配車の注文を受け、これを承諾した。
そして、その前日に、被告代表者は、従業員の渡辺に対し、原告の指揮にしたがって、金井宅内の庭石の移動のためのクレーン運転をするよう指示し、舛谷に対しても同様に本件トラックの運転をするように指示した。渡辺は、昭和四八年ころからクレーン車の運転を行っており、石の運搬の経験もあり、本件事故の以前にも数回原告とともに作業をしたことがあった。舛谷は、本件以前には原告と作業をしたことはなく、石の運搬の経験もほとんどなかった。
(三) 原告は、本件事故発生日の昭和五七年六月八日の午前八時ころまでに、大崎尚及び荒町時夫の二人の作業員を伴って金井宅に到着した。
同じころ、被告の従業員である渡辺は加害車であるクレーン車(車体の長さは約一二メートル、幅は約2.5メートル)を運転し、同じく舛谷は本件トラックを運転して、金井宅前路上に到着した。
そこで、原告は、同日午前八時前ころ、渡辺と舛谷に作業の手順を簡単に指示した。渡辺と舛谷は、おおむね別紙現場見取図(二)表示のとおり、本件トラックを北向きに停車させ、その南側にクレーン車を停車させた。
(四) 渡辺は、事故当日の午前八時ころ、クレーンを操作してブームを庭石置き場に向け、原告らは、原告が持参した玉掛けロープを本件庭石に巻き付ける作業に取りかかった。
本件庭石は、別紙の略図表示のとおり、重さが約1.5トン、縦横の長さが約1.5メートル、厚さが約七〇センチメートルの菱形でやや偏平な形をした日高石である。
まず、原告は、玉掛けの方法としても、前述したとおり、二本のロープを十文字に組む方法(あやかけ)を用いることはしないで、別紙略図表示のとおり、持参した玉掛けロープを本件庭石の頂部と底部を結んで一回巻き、その片方端にクレーンのフックを掛けてから、クレーン車の操作室内の渡辺に「上げろ。」と声をかけて、本件庭石を吊り上げるように指示した。
渡辺は、原告の指示にしたがって、クレーンのワイヤーをゆっくり巻き上げ、本件庭石を地上から持ち上げたときにいったん巻き上げを停止した後、さらに巻き上げを続け、庭石が地上六、七メートルの高さに至ってから、原告の指示によってブームをトラックの停車する方向(右方向)に旋回させ始めた。
(五) 原告は、これを確認してから、大崎らに玉掛け作業を続けるよう指示し、本件トラックに向かった。
舛谷は、そのときに既にトラックの荷台の上に乗っていて、クレーンのブームがトラックの上方にきたときに、渡辺に対し「下げる」よう合図をした。渡辺は、その合図に応じて、ワイヤーを下げ始め、舛谷が本件庭石に手が届く程度の距離になってから下げるのを止め、原告の来るのを待った。
原告は、その後すぐに本件トラックの荷台に上がり、舛谷とともに本件庭石に手をかけて回すなどして、石の着地(台)位置、石の方向などをいったんは決めて、渡辺に対してクレーンのワイヤーを下げるように指示した。そこで、渡辺は、ゆっくりとワイヤーを下げ、本件庭石が本件トラックの荷台に近接したところで下げるのを止めた。舛谷は、そのとき原告の指示で一〇センチメートル角の角材を石の着地予定地点の前後に一本ずつ置いた。
しかし、その際、そのまま本件庭石を荷台に下ろすと、これが荷台の片側に片寄りそうに見えたので、原告は、もう一度渡辺に手で合図してワイヤーを少し巻き上げさせ、そして再度同じように指示してワイヤーを下げさせたころ、本件庭石が荷台に着くか着かない辺りで、石に掛けていた玉掛けロープから本件庭石がはずれて荷台上に倒れ落ちるに至った。
原告は、本件庭石が玉掛けロープからはずれ落ちる前に、ロープの掛け具合を見て、石が落ちるのを察知し、咄嗟にトラックのあおり板を越えてトラックから飛び下りて、受傷した。
以上の事実が認められる。
3 原告は、まず、クレーン操作をする渡辺に対する指示の有無などについて、右の認定と異なり、本人尋問において概ね次のとおり供述している。すなわち「原告が本件庭石の玉掛けをしたが、これを本件トラックの荷台まで移動させるについて渡辺及び舛谷を指示したことはない。渡辺への指示は舛谷がしていた。原告は、金井宅前の道路の交通整理をする必要があったので、いったん金井宅前の路上に出たが、舛谷の作業が遅かったことから、これを手伝おうとして道路側からトラックの荷台に上がった。上がってみると、玉掛けロープが本件庭石の中心からずれているのに気付き、倒れる危険を感じてトラックのあおりを越えて地上に飛び下りた。」などと供述している。
しかし、金井から、同宅内の庭石置き場から庭石を表の庭まで運搬し、そこに設置するなどの造園作業を依頼されたのは原告であること(原告も自認する。)、原告が、一人の考えで、庭石の運搬にあたっての石の固定あるいは緊縛方法として「一本吊り」による玉掛けを用いることを決め、その道具として玉掛けロープ及び金棒などを用意したこと(原告自身の供述)、「一本吊り」による玉掛け及びその解放作業は、経験と技量を要し、当時原告以外には適格者がおらず(原告及び各証人の供述)、原告は、渡辺及び舛谷に玉掛けの資格・経験を問い質していないこと(原告自身の供述)、クレーンのブーム及び巻き上げワイヤーなどの操作は、その一般的な機能などからして、機械装置自体を動かす者が、他の共同作業者の指示・合図にしたがって行うのが原則であるし、本件においても、クレーン車及びトラックの位置関係、庭石の運搬経路及び方法などからして、地上作業者の補助を得て渡辺が機械装置を操作することが予定されていたこと(渡辺、舛谷の証言。原告自身の供述においても、渡辺が誰かの指示によってクレーン操作をすることを否定はしていない。)などからすると、原告は本件庭石の玉掛けをしただけで、これをクレーンで本件トラックまで移動させるについて、渡辺及び舛谷に対し何の指示・合図もしていないなどの原告の供述は、自身の他の供述部分とも相容れないし、到底首肯できない内容のもので、前記の各証言と比較しても、容易には信用することはできない。
また、原告は、本件事故当時のクレーンとトラックの停車位置について、前記認定と異なり、別紙現場見取図(一)のとおりであると供述するが、クレーン及びトラックで金井宅の裏庭石置場から庭石を表の庭まで運搬し、そこでさらにクレーンを用いてトラックから石を下ろす作業を予定していたこと(原告自身の供述)、原告に同行した大崎尚が、巨大な本件クレーン車が裏庭に入ってきたときの様子をまったく記憶していないことに加えて、<書証番号略>、証人渡辺和夫、同舛谷則夫の証言に照らすと、この原告の供述もたやすく信用することはできない。
4 なお、証人渡辺和夫、同舛谷則夫の各証言中、前記認定に反する部分も採用せず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
三責任原因
1 運行供用者責任
まず、加害車が本件事故当時被告の所有に属していたことは争いがなく、二で認定した事実によると、被告は、重機の賃貸業の営業として、金井からの申し込みに応じてクレーン及び本件トラックを賃貸したこと、渡辺が被告代表者の指示にしたがい、原告の指揮のもとにクレーンを操作していた間、クレーンのフックに掛けて吊り上げていた庭石が玉掛けロープからはずれトラックの荷台上に落ちて本件事故が発生した(ただし、因果関係の有無は一応措く。)ことが認められる。
そこで、原告は、本件事故当時、クレーン車の運転補助者であったとの被告の主張についてみると、既に明らかなとおり、原告は、金井から造園作業の依頼を受け、その作業の一部として、裏庭の置き場から表の庭まで庭石を運搬することになったこと、作業手順は原告が大部分決定し渡辺らに簡単に説明して指示したこと、すなわち、クレーンの機械装置自体の操作はもとより渡辺が行ったが、ブームの上下及び旋回、巻き上げロープの巻き上げ及び巻き下げをするかどうか、その速度、時期、程度などは、すべて原告(一部舛谷が補佐した部分はある。)の指揮にしたがい渡辺が機械操作をして行ったものであるから、原告は、本件事故当時、少なくともクレーン車の運転者に準ずる地位にあったものと認められ、自賠法三条の「他人」には当たらないというほかない。
2 使用者責任
まず、渡辺及び舛谷の過失の有無について判断する。
原告は、本件庭石がはずれ落ちた原因は、要するに、玉掛けロープの弛みにあると主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。
また、本件庭石がはずれ落ちた原因は、原告自身が供述するところによると、玉掛けロープが石の中心部に掛かっていなかったことにあったように窮えるが、渡辺のクレーン操作によって玉掛けロープがそのような状態になったと認めるに足りる証拠もない。
さらに、渡辺のクレーン操作の当否についてみても、ブームの上下及び旋回、巻き上げロープの巻き上げ下げは、一部を除いてほとんど原告の指示・合図にしたがったものであって、原告の主張に照らしても、注意義務に反するような点があったとは認められない。また、舛谷が原告を補佐してした渡辺に対するブームを下げるようにとの指示も、なんら注意義務に反するものとは認められない。
してみると、渡辺及び舛谷に過失があったことも、その過失のために本件事故が発生したことのいずれもこれを認められないことに帰する。
そうすると、その余の判断をするまでもなく、原告の主張は理由がない。
四結論
以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の判断をするまでもなく理由がないから、すべて失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大出晃之 裁判官菅野博之 裁判官松田浩養)
別紙現場見取図(一)(二)及び略図<省略>